ファストペダルトレーニングの意外な効果
自転車とは関係ない話ですが、3月8日、スペインで行われたモーグルの世界選手権で日本の堀島選手が優勝しました。
このブログの挨拶のページにも書いていますが、私が自転車を始めたキッカケはモーグルのオフトレだったので今でも冬は毎週スキー場通いをしてます。
そんな訳で今回の世界選手権もローラー台練習をしながらテレビで見ていたのですが、堀島選手の今季最高得点を叩き出した素晴らしいターンにインスパイアされ、常々思っているモーグルのターンと自転車のペダリングの相似性をまとめてみました。
ペダリング練習が意外にもスキー(特にモーグル)と似ていて双方にいい効果を与えている、と言う私の持論の紹介です。
(通勤中の電車の中で書いてるからなかなか筆が進まず、時事ネタとしては大分新鮮さを失ってしまいましたが、結構沢山書いちゃったので一度まとめておきます)
Contents
運動メカニズムと使用している筋肉の比較
平坦な斜面を接雪して滑る場合、スキーは平面上を左右に動きます。
しかし、コブの中を滑る場合、完全に接雪していてもスキー板は上下左右に動くため、板の軌跡は3次元になることはモーグルをやらない人でも理解して頂けると思います。
私の言わんとしている自転車のペダリングとモーグルのターンとの相似性とはモーグルターンの3D的な運動のうちスキー板を上下に動かす際の筋肉の使い方に着目しています。
下記にペダリングをする際に主に使われる筋肉をクランク位置毎に並べてみました。
(ペダリングやモーグルのターンについては皆さん拘りがあって、下記が正解と言う訳ではありません。双方ともあくまでも私見なので分析た理解については少なからず異論があることはご承知しておりますが、少しでも共感して頂ける部分があれば嬉しいです)
ぺダリング中に使用する筋肉
・10時から1時 (上死点クリア)
主に使用する筋肉:なし。脱力が基本(慣性でクリアします)
ポイント:スムースにクリアする事を最優先する部分。
僅かに足を前に出すイメージがあるとよりGoodです
ボールに足を乗せて転がすようなイメージをしてもらえれば分かりやすいかも知れません
・1時から4時(踏み込み)
主に使用する筋肉:大臀筋&ハムストリング(腿裏)+大腿四頭筋
ポイント:大腿四頭筋は意識しやすいですが実は同じくらい大臀筋(お尻)やハムストリングス(裏腿)も使う意識が重要です。お尻や裏腿を使わず大腿四頭筋に頼りすぎるとすぐに疲労していわゆる”脚が売り切れた”状態になってしまいます。
・4時から7時(下死点クリア)
主に使用する筋肉:ハムストリングス(裏腿)
ポイント:いわゆる引き足を最初に意識する部分です。
大きく動かす必要はありませんが、上死点側の足は脱力しているためスムースにペダルを回すにはここをしっかり意識する必要があります。
よく”靴底についたガムを擦り落とすように”と言われるパートですが、使用する筋肉はハムストリングスであること意識するとうまく実践できます。
もっと強く引き足を意識する人は下腿三頭筋(ふくらはぎ)を使って”アンクリング”を同時に行いますが私は特に意識していません
・7時から10時(引き上げ)
主に使用する筋肉:腸腰筋+前脛骨筋
ポイント:腿の引き上げは腹筋をメインに使用します。
また上死点では踵を低くした方が腿をたくさん持ち上げなくて済むので、通過は楽になります。
なので踵を上げすぎないようにするため前脛骨筋を意識します。
ペダリング中の筋肉の使い方を意識していない人やママチャリメインの人にはピンとこないかも知れませんが、要するにお尻や腹筋を含むたくさんの筋肉を総動員してペダリングしているという事です。
なのでよく”攣る”一部の筋肉(例えば大腿四頭筋や下腿三頭筋)だけを疲労させずに、長距離を走り続けられる訳です
コブを滑る際に使用する筋肉
一方、コブの中を低速で(フルコンタクトで)滑る際、コブの吸収進展動作を簡単に4つに分けるとほぼ上と同じような動きになっていると考えます。(繰り返しますがあくまで私見ですよ)
・コブ受けからコブ頂点(コブ通過)
主に使用する筋肉:脱力(吸収姿勢キープ)スキーは自転車と違って上半身の使い方も重要なのですが、今回の話は脚部の運動のみにスコープしていますので、そこは割愛します。コブ上部ではトップが下を向くまでしっかり吸収姿勢をキープします。ここでは基本的には脱力ですが、吸収姿勢をとる際、踵を前に出さないように前脛骨筋も意識する場合があります
・コブ頂点からコブ裏(脚部の進展=加重)
主に使用する筋肉:大臀筋&ハムストリング+大腿四頭筋
コブの中で脚を伸ばし、スキーを踏む事で板のしなりを利用して加速します。
このとき大腿四頭筋を強く意識すると踵が前に出やすいので、大臀筋も意識するとバランスよく加重できます
・コブ裏から底部(踵引き)
主に使用する筋肉:ハムストリングス
スキートップが次のコブの受けに当たる際、踵をカラダの下にキープするために私は踵を引く意識を持っています。
ここは色々な理論(流派?)がある部分で一番理解が異なる部分だと思います
人によっては膝でコブを潰すように、とか正座するように、とか色々な流派があると思いますが、要はこの部分はコブ受けに入る際にカラダが遅れないようにするための準備、と考えています。
この際、ハムストリングは自転車より強くしっかりと意識しています。
私の場合、簡単にコースアウトする時はまず最初にここの意識を確認しています
・コブ底部からコブ受け(脚部での吸収=抜重)
主に使用する筋肉:腸腰筋+前脛骨筋
吸収の際の腿の引き上げには腹筋を使いますが、同時に前脛骨筋を意識して板にダウンプレッシャー(いわゆるスネ圧)をかけ続けることでスキー板がコブ頂点を通過する際、自動的にスキートップが下を向くアクションに繋げます。
自転車とモーグルの姿勢の一番大きな違いは踵とお尻の前後関係で、自転車の方がお尻が後ろにあります。
(注)モーグル目線で言うと自転車とは骨盤の角度も大きく違います(モーグルは起こします)が今回はペダリング目線のお話なのでそこは割愛してます。
この違いを大きく感じるのは自転車のペダリングの上死点クリアの場合とコブを通過する場合の比較で、自転車では僅かですがボールを転がすようなイメージで足を前に出しますがモーグルでは足をお尻の下から出来るだけ前に出さないようにするので前に出す意識は全くありません。
ここのフィーリングが大分異なりますが、腰をサドルの前方にズラすことで多少はスキーに近くなると思います。
と言うものの機構学的に見た場合、そもそもコブの形(入力波)はどう見てもサインカーブではないし、実際にはスピードが上がるに連れフルコンタクトは出来ないので等速円運動に近いペダリングと同じ軌跡になる訳はありません。
ここではペダリングの踏み込みと引き上げの筋肉の使い方はモーグルの進展と吸収に似ている、という事を理解して頂ければ十分です。
ペダリング視点からのモーグルターン
一回ここで堀島選手のターンに戻ります。
モーグルでターンを評価されるのは主にミドルパート(1エアから2エアの間)で堀島選手は軽く秒間3ターン(3コブを通過しているということ)はしていました。
モーグルは両脚を揃えて同時操作しているだけで、1ターン=1回転と置き換えると堀島選手のターンをメトロノームで測った結果はやはり180rpmを超えていました。
180rpmとはトップスプリンターのゴール直前のフルもがき状態(約80km/h)とほぼ同じ状況です。
そんな極限状態のまま2エアに入り、空中で完璧にカラダをコントロールして巨大なコーク7を決めるんだから堀島選手の身体能力の高さは想像を絶するレベルにあると、改めて感動した訳です。
世界チャンピオンなんだから当たり前なんだけど、勝手ながら自転車目線で見て凄さを実感しました。
ちなみに女子のモーグル選手の場合、秒間2ターンくらいなので、この場合は120rpm程度となり、このレベルならロード乗りなら常用できる人も多いのではないでしょうか。
そういう意味からも草大会をメインに活動している一般のモーグラーは女子の一流選手の滑りを参考にするのは丁度いいのかも知れません
ぺダリングとモーグルターンの相似性とは
ペダリングの踏み込み時間は回転数(=ケイデンス)を上げていくとドンドン短くする必要があります。
(そうしないと引き上げが間に合わなくなりますから)
と同時に当然それぞれのパートも早く順番が回ってきます。
つまり高回転ペダリングとはそれぞれのパートの運動を一瞬で正確に終わらせることの連続に他なりません。
瞬間的な筋肉の収縮を正確に持続する、という視点から見るとモーグルのハイスピードターンも同じ事が要求されます。
これこそが私が言わんとしているペダリングとモーグルターンの相似性の真意です。
ゴール前スプリントや2エア前のような慌ただしい状況下で脳が適正な筋肉に正確なタイミングで収縮の指令を出せるか?という視点で見た場合、ペダリングもモーグルも殆んど同じである、というのが、私の持論です。
ケイデンス限界は個人によって違うので、ある人にとっては限界ギリギリのケイデンスでも、もっとレベルの高い人から見るとサイクリングレベルだったりします。
言い換えればケイデンス上限を向上させる事が出来れば、自転車では巡航中の常用ケイデンスを上げることができ、ゴール前スプリント力はもちろん、1回転で消費する時間が短いため筋肉の疲労度が減り、より長距離を走る事が出来るようになります。
一方、モーグルではコブへの対応に余裕が生まれるのでターン速度を上げることに繋がるし、仮に180rpmで回すことが出来れば世界チャンピオンと同じ秒間3ターンのリズムを疑似体験出来た、思ってもいいのではないでしょうか
(思いっきり拡大解釈してますよ)
なので、私はローラートレーニングのメニューに必ずファストペダルトレーニング(低負荷×高回転)を入れています。
まとめ ファストペダルトレーニングの効果
軽負荷×高回転のファストペダルトレーニングは多くのサイクリストが取り入れています。
最強アマチュアレーサー高岡亮寛選手も著書”最強レースに勝つためのロードバイクトレーニング(以前紹介した記事はこちら)”の中でファストペダルトレーニングについて触れていて、トレーニングのアクセントとして行っているそうです。
心拍数が上がりやすいので人によってはウォーミングアップに使ったりしていますが、私の場合は入力と脱力を正確に行いぺダリングロスの少ないスムースなぺダリングの習得を目標に取り組んています。
(週に2、3回、1回に2セットやっています)
特に決まったやり方はないようですが、私の場合、まず平坦路程度の負荷でフロントをインナーギヤにして100rpmをキープします。
そこからケイデンスを100→120→140と徐々にあげて行き各回転数で一旦息を整えます。(10秒間キープ)
で、140からは一気にMAXまで上げます。
やってみれば分かりますが、タイミングよく脱力できないと100rpmでもお尻が跳ねてしまって、そこから回転を上げられません。
このとき注意することはとにかく踏み過ぎないことです。
(私の場合、MAXで留まっていられる時間はせいぜい2〜3秒です…)
ちなみにゴールに突っ込んでくるトップスプリンターはアウターxトップで180rpmを超えて、その際の出力は1500W以上(750W≒1馬力、平坦路40km/h巡行が約300W)と言うのですから正にバケモノですね。
これとは別に120rpmで1分回して、レストを入れて3セットやる方法もあります。
回転数は低いけど後者もなかなか難しいのでチャレンジしがいのあるメニューですよ。
100rpmを超えるケイデンスはビンディングペダル(靴とペダルをくっ付けて使うペダル)が必要ですが、クロスバイクによく付いているフラットペダル(普通のペダル)でも引き上げを意識する事で100rpm近くまではケイデンスを上げることはチョット練習すればできます。
ママチャリでもポジションを修正(サドルを上げる)できればクロスバイクと同程度のケイデンスは実現可能だと思います(ママチャリの改造例はこちら)
左右のクランクレバーは180°位相がズレているので、一方が踏み込みフェーズの場合、他方は引き上げフェーズになります。この双方はシンクロさせる必要があります。引き上げによって(引き上げ側の)ペダル加重を少しでも減らせれば踏み込み側の負荷が減るからです。
コツはこの踏み込みと引き上げをシンクロさせること
踏み込みと引き上げを同時に行えば(シンクロナイズさせれられれば)、全体の負荷が減り、ペダルは想像を超えた軽さで回せます。このことは有名な自転車の本”自転車の教科書(紹介記事はこちら)”の中で著者は完全にシンクロしたぺダリングを”夢の永久機関”と表現していますし、小説”ヒルクライマー(紹介記事はこちら)”では鬼コーチであるうどん屋のオヤジが主人公に、素人はこの感触を得られるまで回せ!と指示していることから、ペダリング課題に直面した際はまずココをチェックするのがいいと思います。
引き上げと踏み込みをシンクロさせることによって得た余力を使ってケイデンスを上げて一回転あたりの筋肉疲労量を減らす事もできるし、同じケイデンスならより重いギアが使える(=高出力が発揮できる)ようになります。
100rpmの時は1時から4時まで入力していたのに回転数を上げていくと段々入力時間が短くなって1時から2時くらいになります。(イメージは”チョンチョンチョン…”と瞬間的な入力)
コレがモーグルと同じか?と言うと異論がある人は恐らくたくさんいらっしゃるかも知れませんが、少なくとも私は今期自分のモーグルのターンスピードが上がったのはファストペダルトレーニングの効果だと思っています。
もちろんファストペダルはモーグルのための練習ではありませんが、純粋に自転車練習をするだけでモーグルにも効果があったよ、というお話でした。
モーグルをやられていて、自転車トレーニングを取り入れていない方は是非一度ファストペダルトレーニングを試してみてはいかがでしょうか?きっと新鮮な体験が出来ると思いますよ
おまけ
ちなみにTeam SUMITのヒロシ(本物)と堀島選手は個人的に知り合いで、2月に日本の田沢湖で開催されたワールドカップでは山梨県スキー連盟公認チーム”E組”(公式Facebookはこちら)の代表として現地まで応援に行って直接エールを送ってきたそうです。
(ヒロシの顔の広さは全日本級です)